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現金主義の複式簿記

単式簿記は現金主義でしか記帳出来ないが、複式簿記は発生主義でしか記帳出来ない訳では無い。経理の手間を最も少なくする方法として、現金主義の複式簿記にたどり着いた。

現金主義と発生主義

現金主義とは、(預金も含めた)現金のやり取りがあった時点で記帳するやり方である。当然、複式簿記でも現金主義で記帳する事は出来る。

発生主義とは、現金のやり取りには関係なく、実際の費用や収益に関する事象が発生した時点で記帳するやり方である。これは言い換えると債権と債務の発生時点で記帳する事になる。その後、債権と債務を解消すべく現金のやり取りをした時点でも記帳する。

従って、発生主義の記帳する手間は現金主義のほぼ倍だとも言える。

下記は、給与は月末締めの翌月20日払いという条件で、役員報酬と社会保険料の支払いについての現金主義と発生主義の記帳の違いを実例で示した。

現金主義による記帳発生主義による記帳
年月日借方金額貸方金額適用年月日借方金額貸方金額適用
2016-10-2054,200役員報酬2016-09-3054,200役員報酬
2016-10-2041,912普通預金2016-09-3054,200未払い給与
2016-10-2012,288社保預り金
2016-09-3012,483法定福利費
2016-10-3124,771普通預金2016-09-3012,483未払費用
2016-10-3112,288社保預り金
2016-10-3112,483法定福利費2016-10-2054,200未払い給与
2016-10-2041,912普通預金
2016-10-2012,288社保預り金
0
2016-10-3124,771普通預金
2016-10-3112,288社保預り金
2016-10-3112,483未払費用

社会保険料は、月末に在籍していた場合に発生し、本人負担分はその翌月の給与から控除することが法律で決まっている。従って、9月分の給与と社会保険料の会社の債務は9月末に確定し、10月の給料日と社会保険料の引き落とし日に現金のやり取りでその債務は精算される。

重要性の原則

法人の会計を正しく行うには、企業会計原則というものに従っている必要がある。現金主義ではなく発生主義で記帳することもその一つである。但し、その企業会計原則の注解として「重要性の原則の適用について」というものがあり、その中で、
前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。
という記述がある。要するに、重要性が乏しいなら、便宜上現金主義で記帳しても良いとのお墨付きがある。自家用法人の役員報酬や社会保険料は大した額では無いので全て現金主義で記帳して問題ないことがはっきりした。

それに、零細企業にとって企業会計原則は無縁で、税務署が認める会計が正しい会計なのである。そうすると、税務署としては法人所得の増える会計が正しい会計である。従って、費用計上出来る項目を計上しなければ法人所得は増えるのだから、税務署がそれを認めないはずは無い、と言える。
但し、費用計上しない訳ではなく、費用計上が翌期にずれるだけなので、長期でならして見れば現金主義の費用計上でも所得は変わらない。このように、費用に関しては発生主義でも現金主義でも税務署的にはOKなのだが、処理方法は一貫して継続する必要がある。(年度によってコロコロ変える事は出来ない。)

実現主義とは

(これから書くことは、現実に事業を行い、収益が生じた場合にのみ必要となる知識である。) 企業会計原則によれば、費用は発生主義で、収益は実現主義で計上することになっている。

実現主義とは、収益を得る活動に於いては経過勘定で計上せず、財貨や役務が移転した時点で計上することを言う。具体的には、商行為が売掛金や受取手形(以下、売上債権と呼ぶ)という形になった時点になる。

現金主義では売上債権が生じても現金化されるまで記帳しない。しかし、決算時に残っている売上債権を計上しなければ、税務署が許さない。(何故なら、売上債権を計上しないと法人所得が減るからである。)

つまり、現金主義での経理を貫きたいが、期末だけは税務署対策の為に以下の処理をする必要がある。(これは期中現金主義・期末発生主義とも言うらしい。)
決算整理仕訳で期末に残っている売上債権を売上と売掛金に仕訳して計上し、翌期の開始仕訳では逆の仕訳をして売掛金はゼロ、売上は売掛金の額だけマイナスとする方法である。
決算整理仕訳と言っても、実際に仕訳する日は期末を1ヶ月以上も過ぎていて、期末には売上債権だったものも既に全部入金されている。だから貯金通帳を見ながら辻褄が合うように仕訳すれば良いだけだ。
このように期首で売掛金について逆の仕訳をすれば、売掛金に対する入金も、期中に売り上げた入金も(例外なく)売上と預金に仕訳することが出来る。

これでも面倒なら、期末が近づけば仕事しないようにする。そうすると、期末迄に全て入金されるので売上債権は消滅し、売掛金を計上する必要がなくなる。

給与の締日と支払日

給与の支払いに関して、以前勤めていた会社は入社した月から給与が支払われた。それが当たり前だと思っていたが、入社した月には何も支払われない会社も実は多いらしい。

入社した月から給与を支払う場合(当月払い)、その月の残業代は翌月の給与で支払われる。また、その月の社会保険料は翌月の給与から控除することになる。(従って、月末に退職する場合は最後に給与から2ヶ月分の社会保険料を控除する必要がある。)
コラム: 月の途中で退職すると、その月の社会保険料は発生しない。…が、それにより国民健康保険に月の途中で加入すると、その保険料はその月の全額が掛かる。
一方、入社した翌月から給与を支払う場合(翌月払い)、残業代も含めて支払えるし、社会保険料を控除する月もズレない、という点で当月払いよりも優れている。(あくまで、会社の事務処理の手間という点で。貰う側としては早く貰える方が有難いはず。)

但し、翌月払いだと未払い給与が生じて、発生主義の会計ならその計上の手間も掛かる。しかし、現金主義の会計ならその手間も無い。
コラム: 源泉徴収の納付の特例を受ける場合でも翌月払いの方が手間が少ない。会社設立直後に納付の特例の承認に関する申請をしても、それが適用されるのは翌月から。当月払いだと、最初の月は源泉徴収する必要がある。
従って、自家用法人では、給与は月末締めの翌月払いにするのが最も手間が掛からない、と思う。(社会保険の 被保険者報酬月額算定基礎届 という書類に 給与の締日と支払日 を記入する欄がある。)