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源泉徴収と特別徴収

源泉徴収と特別徴収の制度について、条件を自家用法人に合わせて説明する。

それは、自家用法人が給与を支払うのは自分を含む家族に限定し、賞与は支払わない、配当も支払わない、という事である。そして、給与は所得税も住民税も発生しない額である。

源泉徴収の制度

源泉徴収とは、給与や報酬を支払う際に源泉徴収分を差し引いて、その源泉徴収分を支払者が国に納める義務を負う、という制度である。利子や配当には法人に対しての源泉徴収もあるが、通常は個人に対しての支払いのみが源泉徴収の対象になる。

自家用法人に関係する源泉徴収の種類としては、所得税法に、
  1. 給与所得に係る源泉徴収 (第183条)
  2. 報酬、料金、契約金又は賞金に係る源泉徴収 (第204条)
が挙げられている。1.は自家用法人が自分(又は家族)に支払う給与について、2.は自家用法人が外部の個人に対して支払う報酬・料金等についての規定である。

これらは、支払者が所得税を源泉徴収して支払った翌月10日迄に税務署に納める必要がある。但し、納付の特例 (第216条) の承認を受けていれば、年に2回に纏めて納めることが出来る。

納付の特例が受けられるのは、給与等の支払を受ける者が常時9人以下である事務所等となっていて、納付の特例の承認に関する申請をした翌月の給与から特例が受けられる。と言うことは、会社設立時には設立月に申請しても、設立月に給与を支払うなら特例は受けられない。

納付の特例は、2.については、第204条 第2号 に定められた報酬又は料金に限られる。
第204条 第2号 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
即ち、自家用法人でも関係がありそうな、第204条 第1号で定められた個人に対する原稿料等は納付の特例の対象外になっている。
第204条 第1項 第1号 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
源泉徴収する所得税額は、1.給与所得、2.報酬・料金等、によって計算方法が異なるので、それぞれの税額表で計算する。

源泉徴収した所得税を納付する際には、財務省令で定める計算書…所得税徴収高計算書…を添附する (第220条) ことになっている。尚、納付すべき給与所得の所得税が無い場合も計算書の提出は必要(根拠条文無し?)。
なお、納付する税額がない場合であっても、この所得税徴収高計算書は所轄の税務署にe‒Taxを利用するか又は郵便若しくは信書便により 送付又は提出してください。(税務署が配布する「源泉徴収のあらまし」パンフレットより)
計算書は、給与の所得税のものと報酬・料金の所得税のものと別々になっているが、弁護士等への報酬は給与の所得税のものの中に含める事になっている

源泉徴収簿というものを用意(税務署からの年末調整の書類一式に同封されている)して、毎月の給与の、支給日、支給額、社会保険料の控除額、控除後の支給額、扶養家族数、算出税額、を(納付の特例を受けているなら年2回の頻度で)記入しておく。社会保険事務所の調査時には源泉徴収簿を見せるように言われたことがある。

給与所得の源泉徴収額

第194条 第1項 国内において給与等の支払を受ける居住者は、その給与等の支払者(その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者)から毎年最初の給料日の前日までに次に掲げる事項を記載した申告書を、当該給与等の支払者を経由して…所轄税務署長に提出しなければならない。
第198条  第194条から第196条までの場合において、これらの規定による申告書がその提出の際に経由すべき給与等の支払者に受理されたときは、その申告書は、その受理された日にこれらの規定に規定する税務署長に提出されたものとみなす。
実際には給与所得者の扶養控除等申告書(:以下Aとする)は、給与の支払者が税務署から提出が求められるまで保管し、8年後の1月10日を過ぎれば廃棄(所得税法施行規則 第76条の3)出来る。

の A を提出した場合は源泉徴収税額表の甲欄の金額を使う。社会保険料等控除後の給与の額(:以下Xとする)と扶養家族の数で源泉徴収額が決まる。扶養家族が0人の場合でも X が88,000円未満の場合は源泉徴収額は生じない。

この A を提出しなかった場合は源泉徴収税額表の乙欄の金額を使うことになっている。この場合は、X が88,000円未満の場合は源泉徴収額は X の3.063%(1円未満は切り捨て)になる。

報酬・料金等の源泉徴収額

源泉徴収すべき額は、(司法書士、土地家屋調査士、海事代理士 以外は)支払金額の10.21%。但し、支払金額の内100万円を超える部分については20.42%。

尚、支払者が交通費・宿泊費を交通機関等に直接支払う場合は支払金額には含めない。

退職所得を会社清算に活用出来る時

会社に余剰金がない自家用法人にあっては、退職手当は出せないので、ここでは制度の説明はしない。しかし、会社を清算する場合に、もし精算時に使い切れない程の余剰金があれば、退職手当に充てるべきだ。

通常は、引き続き勤務している場合には、退職手当と称しても所得税法上は賞与と見なされるのだが、会社清算時に代表社員が会社清算人になった場合、その解散前の勤続期間に係る退職手当は退職所得になる(所得税法基本通達30-2(6))。

会社清算時に出資者に分配された余剰金は、みなし配当(会社に源泉徴収義務あり)とされて、配当所得の対象になる。これには出資者に総合課税で所得税・住民税が掛かる。

一方、退職所得は勤続年数に応じて控除額があり、更にそれが1/2になり、これに分離課税で所得税・住民税が掛かる。従って、みなし配当の場合よりは所得税・住民税の額は少ないはずである。

但し、退職手当が過大と判定された場合、超過分は役員賞与と見なされて追徴課税される。
法人税法施行令 第70条 法第34条第2項(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする。 
第2号 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額

年末調整の事務

年末調整とは、(大雑把に言うと)給与支払者が、給与所得者の所得税の確定申告(と同等の計算)と納税を代行する義務を負う、という制度である。

年の最後の給与支払いの時に、個々の給与所得者のその年の正確な所得税額を給与支払者が計算し、その年の源泉徴収した所得税の合計額との差額を精算するというしくみである。
  1. 年間の給与の総支給額から給与所得控除後の給与所得額を計算する。
  2. 給与から控除した年間の社会保険料を 1.から控除する。
  3. 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された扶養家族(12月31日、又は死亡時の状況で判断する…注)に対する控除額を 2.から控除する。(所得控除)
  4. その年の源泉徴収額の合計と、3.の控除後の給与所得額から計算される所得税額を比較して、不足額は最後の給与から源泉徴収し、過剰なら最後の給与で源泉徴収から戻す。…自家用法人の給与では所得税は発生せず、源泉徴収もされて無いので何もしない。
(注) 扶養家族が年度途中に出生や所得条件で増えれば年末の状況で判断されるから扶養家族として認められるし、死亡の場合は死亡時の所得や生計を一とする条件を満たしていれば扶養家族としてやはり認められる。

もし他に収入があるときは、年末調整を受けていても自分で確定申告をする。その時に配偶者特別控除も保険料控除も住宅ローン控除も申告出来るので、年末調整では任意の提出とされる以下の申告書は(自家用法人に書類の保管義務が生じるから)利用しない。
  • 給与所得者の配偶者特別控除申告書
  • 給与所得者の保険料控除申告書
  • 給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書

法定調書

法定調書とは、支払いに関して税務署に提出する義務のある書類の事で、提出期限は支払のあった翌年の1月31日である。上記の源泉徴収の他、法人に対する報酬・料金の支払い不動産関連の支払いも対象になっている。
  • 給与所得については、源泉徴収票という名称である。
    • 源泉徴収票は給与を支払った個人毎の書類になる。
    • 役員の場合は給与が150万円を超えるものに提出の義務がある。(所得税法 施行規則 第93条 第2項 第2号)…(注)
    • 源泉徴収票は給与を支払った個人へも支払のあった翌年の1月31日迄に交付する義務がある。
    • 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表というものも提出しなければならない。
    • 後述の給与支払報告書の申告をeLTAXというシステムから行えば、給与についての法定調書を同時に税務署への送信出来る。

  • 報酬・料金等については報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書という名称である。
    • 同一の支払先への支払金額の合計が5万円を超えるものに提出の義務がある。
    • 支払調書は支払先への交付が商習慣だったが、マイナンバーの記載をきっかけに交付しない例が増えている。
    • 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書合計表というものも提出する。
    • eLTAXを使って給与関連の法定調書を送信していても、給与以外の支払調書があるなら別途、税務署へ法定調書を提出する必要がある。

給与支払報告書

給与支払報告書とは、給与を支払った個人に関して市区町村に提出する義務のある書類の事で、提出期限は支払のあった翌年の1月31日である。市区町村とは、支払のあった翌年の1月1日に於ける給与を支払った個人の居所のある市区町村の事である。
  • 支払報告書には個人別明細書と総括表がある。
    • eLTAXで支払報告書を作ると、税務署への法定調書も同時に送信してくれる。eTAXの方からは支払報告書の提出は出来ない。
    • しかし、源泉徴収票を給与受給者に交付する必要から、電子申告とは別に手書きしている(これは役所には提出しない)。

特別徴収制度

住民税には都道府県への税と市区町村への税がある。所得税の確定申告のデータから税額が決定されて、課税される年度の翌年の都道府県への税金も含めて市区町村へ納税することになっている。

この住民税を個人が納税する場合は普通徴収と言い、給与支払者が個人に代わって(給与から控除して)納税する場合は特別徴収と言う。給与に対する住民税は、必ず特別徴収する事になっている。

但し、給与所得者が給与以外の収入があって確定申告した場合に於いては、給与以外の収入から生じる住民税については普通徴収か特別徴収かを確定申告時に指定する事が出来る。

この制度は自家用法人にとっては非常に面倒なので、給与の額を低くして住民税が絶対に掛からないようにする。もし、他に収入が生じても、確定申告で普通徴収(給与に対する住民税は特別徴収のままで、他の収入に対する住民税のみを自分で納付する)を選択する。

このようにしても、自家用法人は給与所得者の居住する市区町村から特別徴収義務者として市民税・県民税特別徴収税額通知書が送付される。しかし、その税額がゼロならゴミ箱に捨てて良い。

税額がある場合は、課税対象となる翌年の6月分の給与から毎月控除して翌月10日までに納付する。但し、源泉徴収の納付の特例を受ける事の出来る事務所なら、住民税も同様に納付の特例制度があって、市区町村の承認を受ければ年2回の納付になる。源泉徴収の場合よりも1ヶ月納期が早い点に注意。

罰則・延滞金などについて

源泉徴収した所得税の納付が1日でも遅れると、不納付加算税というものが源泉徴収義務者に課せられる。
  • 税務署からの指摘があった場合: 納付すべき額の10%
  • 自主的に納付した場合: 納付すべき額の5%
加えて、遅れた日数に応じた延滞金も課せられる。

しかし、納付すべき額がゼロであれば、どちらもゼロになる。従って、源泉徴収額がゼロとなるように給与の額を決めておきさえすれば、たとえ所得税徴収高計算書の提出が遅れてもビビる必要はない。

住民税についても納付が遅れれば特別徴収義務者に延滞金が課せられる。こちらは税額を通知してくる(申告はない)ので、税額がゼロなら何もする必要は無い。