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自家用法人の税務

個人の場合は所得税額が発生しなければ確定申告する義務は無いが、法人は法人税額にかかわらず確定申告する義務がある。
法人税法 第74条 内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から二月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
第71条 内国法人である普通法人は、その事業年度が六月を超える場合には、当該事業年度開始の日以後六月を経過した日から二月以内に、税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。ただし、第1号に掲げる金額が十万円以下である場合又は当該金額がない場合は、当該申告書を提出することを要しない。
第73条 中間申告書を提出すべき内国法人である普通法人がその中間申告書をその提出期限までに提出しなかつた場合には、その普通法人については、その提出期限において、税務署長に対し第71条第1項各号に掲げる事項を記載した中間申告書の提出があつたものとみなして、この法律の規定を適用する。 
第71条と第73条は中間申告というものについての規定である。第73条では中間申告の申告書を出さなかったら前年度の法人税額の1/2を納めますという申告書を出した事にする、という規定である。

従って、通常は中間申告書は出さずに、前年度の法人税額の1/2を納付する。これを予定納税とも言うらしい。仮決算から算出される中間納税額が、その予定納税額を下回れば、中間申告書を提出しその中間納税額を納付する事も出来る。

第71条 第1項に掲げる金額とは、前年度の法人税額の1/2であり、つまり前年度の法人税額が20万円以下の場合、予定納税は不要

法人県民税法人市民税については地方税法に規定がある。コチラには所得がなくても均等割額というものがあるので、申告し、納付しなければならない。更に、事業税というものも地方税法に規定がある。事業税は納付した期の損金に算入出来る点が法人税・法人県民税・法人市民税とは異なる。
コラム: 法人県民税と法人市民税は、法人税割額と均等割額の合計で算出される。法人税割額は法人税の税額(と資本金額)から決まる。一方、事業税は所得金額から決まる。その所得金額は法人税の計算に使う所得金額とは完全には等しくなく、事業税の申告書(法人県民税の申告書と一体)の中で法人税の所得金額から加算、減算をして算出する。
また、法人県民税(と事業税)、法人市民税には法人税と同様に中間申告の義務がある。予定納税という形で申告書の提出に代える点も同様。法人税の予定納税が不要の場合はこれらの税の予定納税も不要になる。

消費税について

法人が物やサービスを売り上げた時に、消費税の申告が必要となる可能性がある。
消費税法 第5条 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、この法律により、消費税を納める義務がある。
第2項 外国貨物を保税地域から引き取る者は、課税貨物につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
消費税法 第45条と第9条1項 の規定により、年間(事業年度)の課税売上高が1,000万円までの法人は消費税を申告する必要が無い。
第9条 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第45条 事業者(第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。ただし、国内における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れがなく、かつ、第4号に掲げる消費税額がない課税期間については、この限りでない。
更に、新設法人(資本金額が千万円未満に限る)については、消費税課税業者ではない為、消費税を申告する必要が無いが、前事業年度の課税売上高が1,000万円を超えるとその旨の届け出が必要(消費税法 第57条 第1項)で、その結果、翌事業年度(前事業年度から見れば翌々事業年度)からは消費税課税事業者になる。

消費税課税業者になれば、消費税の申告も必要になる。こちらは、前年度の消費税額により、中間申告の必要回数が変わる。これも、予定納税という形で申告書の提出に代える事が出来る。
  • 48万円迄 は中間申告不要。
  • 48万円超 400万円以下 は年1回 …予定納税額は前年度消費税額の1/2
  • 400万円超 4,800万円以下 は年3回 …予定納税額は前年度消費税額の1/4
  • 4,800万円超 は年11回 …予定納税額は前年度消費税額の1/12
年間の課税売上高が1,000万円までなら、課税業者であっても申告義務はないが、その旨の届け出が必要(消費税法 第57条 第2項)。

予定納税は申告で精算される

中間申告しないで予定納税で済ませると、面倒な書類を書かずに済むが 税金の払い過ぎの恐れがある。しかし、大丈夫なのだ。

申告では1年分の税額を計算し、それ迄に払った予定納税額を差し引いた額を納付する事になっている。もし、計算した税額が予定納税額を下回る場合は、差額は還付され、更に還付付加金という 還付される迄の利子も貰える。

毎年のように変わる税制

ここ迄の説明は、申告書の提出義務ベースで述べた。実際の税はもっと複雑で、しかも毎年のように変化している。(近年では、復興特別法人税の廃止、地方法人税と地方法人特別税の創設、法人の利子割の廃止)
  1. 法人税申告書 → 法人税、地方法人税
  2. 法人県民税申告書 → 法人県民税、法人事業税、地方法人特別税(注)
  3. 法人市民税申告書
  4. 消費税申告書 → 消費税、地方消費税
(注) 地方法人特別税は 2017年4月1日以降開始の事業年度の申告から廃止

上記の 1.から 3.迄は全ての法人に申告義務があり、4.は消費税が課税される場合のみに申告義務がある。

法人税の申告

法人税の申告さえ出来れば、その他の申告は非常に易しいと言える。(法人県民税と法人市民税の申告は、法人税額を基準として計算する。)

法人税の申告がなぜ難しいのか、について長年考えてきたが、税務署が色んな書き方を認めている、のが最大の理由だろう。税務署は、適切だと考える税額を下回るような申告は絶対認めないが、そうで無ければ構わない、という姿勢なのだ。

だから、申告書に書き方の例を載せてくれない。税務署への問い合わせでも、「この様に書いて差し支えないか?」 という形で聞くしか無いのである。(…税務署の方から具体的な書き方を指示することは無い。)

その次に税理士が書き方を難しくしている、とも言える。節税の為と称して、各種引当金を計上させ、税制の特例を駆使して作る申告書は とても複雑である。

でも、そんな事をするからこそ、税理士に頼むしか無くなるのだ。自家用法人の規模なら、簡素な申告書で多少税額が増えたとしても税理士報酬を無くした方がよっぽど安くつく筈である。

引当金の僅かな効果

引当金とは、将来に発生が予測される損失や費用の為にあらかじめ拠出する(=費用化される)お金(お金自体はマイナスの資産になる)で、その幾つかは法人税法上 損金として認められている。これを計上すれば、その分利益が減って法人税が少なくなる。

しかし、毎年の法人税を減らす効果は無い。その、たった一度きりの減税効果の為にその引当金はずっと計上し続ける必要があり、手間が掛かるのだ。

引当金を計上しない場合では、最初の減税効果は得られないものの、実際に損失や費用が発生した時点で損金になるので、結局は引当金を計上した場合と通算した法人税額は同じになる。

そして、会計で未払法人税等と呼んでいるものも引当金であるが、法人税等は損金にはならない為に、コチラは計上しても何らの減税効果も無い。この未払法人税等は、税法上は納税充当金と呼んでいる。

納税充当金で申告が複雑に

法人税の申告で難しいのは、所得の計算である。所得は法人税確定申告書の 別表4 という用紙の中で計算する。

この 別表4 の先頭は当期利益を記入するようになっている。その下の行から各種の加算項目と減算項目を記入し、最後の行で所得金額を算出して記入する。

加算項目とは会計では費用とされているけど税法では費用にならないもの、減算項目とは、会計では収益とされているけど税法では収益にならないものである。このような違いがあり、税法では費用の事を損金収益の事を益金と呼んでいる。(なるべく加算項目と減算項目が発生しないように事業活動を行うのが申告を易しくする第一歩である。)

この、いちばん最初に記入する当期利益は、税引前当期純利益から法人税等を差し引いた額である。その差し引く法人税等がその事業年度に支払った額ならすぐに書ける。しかし、これから計算する所得金額に基いて算出する法人税等なら、…話は複雑だ。

通常の会計では、その事業年度の所得金額に課せられる法人税等を未払法人税等と呼び、当期利益は税引前当期純利益から未払法人税等を差し引く事で算出する。

だが、税法がそのやり方を標準と考えているのなら、 別表4 の先頭は 税引前当期純利益の記入であるべき。即ち、税法は、その事業年度に支払った法人税等を差し引いたものが当期利益というやり方が標準だと想定している、…と 別表4 は主張している(はずだ)。

だから自家用法人の申告では納税充当金を使わない方が良い。言い換えれば、未払法人税等という引当金を計上しない。

税の還付金がある場合も、納税充当金を使う会計だと未収還付税という資産として扱う必要があって難しいが、納税充当金を使わなければ、還付があった時点で益金(勘定科目としては、マイナス額の法人税等)として計上するから易しい。

その他にも、納税充当金を使わなければ、別表4 の他に 別表5(1) と 別表5(2) の書き方も易しくなる。

利子課税の問題

預貯金の利子等には、個人も法人も所得税が源泉徴収される。個人の場合、源泉徴収された残りの利子は所得の対象とならないので源泉徴収の意味もある。しかし、法人の場合は利子等も収益とされ、法人所得の対象となる点が異なる。そこで、経理上は以下のように処理する。
  1. 源泉徴収後の利子から源泉徴収される前の利子の額、所得税額を計算する。
  2. 源泉徴収される前の利子の額を収益とする。
  3. 法人税の確定額から利子に掛かる所得税額を差し引き、法人税を支払う。
  4. 差し引いた額がゼロを下回る場合は、下回った額を還付してもらう。
そうすると、法人に対する預貯金の利子等には源泉徴収しても、しなくても結局同じだけ税金を支払っている事になる。実際に、法人に対する預貯金の利子等に掛かる地方税(利子割)は、事務手続きのコストを削減するという理由で、2016年1月1日から廃止された。(私は、所得税についても廃止するべきであると思っている。)

法人税の確定申告に於いて、最も困難なのは納税充当金を使った申告で還付金が発生する場合である。これは税理士でも頭が爆発する位難しい。そこで、困難を避けるのに納税充当金を使わない(税金は実際に支払った会計年度に経費とする)申告とする。

そうすると、源泉所得税を払った期には法人税等の支払いとして費用に計上し、還付された期には、マイナスの法人税等の収益として計上し、税引き後当期利益を算出する。

この場合は、法人税の確定申告書 別表4 の内で、その期に支払った源泉所得税は、(加算項目内では無く) 法人税額から控除される所得税額 の欄で加算し、その期に還付された(前期に支払った源泉所得税の)還付金は、減算項目の 法人税等の中間納付額及び過誤納に係る還付金額 の欄で減算し、所得金額を計算すれば良い。
コラム: 源泉所得税を税額控除にしない場合は損金に算入できるとの規定がある。損金算入を選択すれば、利子割が無くなった現在、源泉徴収後の利子をそのまま収益と出来ると思ったが、地方税法施行令 第21条の2の規定により、事業税の課税基準では源泉所得税は損金算入出来ないとのこと。
しかし、最も簡単なのは、そもそも利子が無い(決済用普通預金口座)ようにする事だ。普通の口座でも1,000万円までは金融機関が倒産した時に保護されるが、決済用普通預金口座だと上限が無くなるという利点もある。

法人税確定申告書の実際

サンプル合同会社という架空の会社の法人税確定申告書を作ってみた。これは、[こぶり会計帳簿の使い方]で紹介した、2016年1月1日から12月31日迄の我が自家用法人の会計の数字を使っている。

法人番号と住所は国税庁のものを利用した(東京都千代田区)ので、法人住民税の額が食い違うが、我が自家用法人の法人住民税の額のままにしている。

書面は eTAXで作り、印刷でpdf化した。
  1. 別表1(1).pdf … 確定申告書の表紙、法人税額の計算
  2. 別表2.pdf … 同族会社の判定
  3. 別表4(簡易様式).pdf … 所得金額の計算
  4. 別表5(1).pdf … 利益積立金額の計算
  5. 別表5(2).pdf … 租税公課の納付状況
  6. 法人事業概況説明書.pdf … 主要科目の残高、月別売上高、会計帳簿などの説明
  7. 預貯金等の内訳書.pdf
  8. 役員報酬手当等及び人件費の内訳書.pdf … 役員報酬
  9. 借入金及び支払利子の内訳書.pdf … 役員借入金
  10. 買掛金(未払金・未払費用)の内訳書.pdf … 社会保険料の未納分
  11. 仮受金(前受金・預り金)の内訳書.pdf … 社会保険料の未納分
3.の数字はeTAXが自動的に計算して埋めてくれる箇所も多い。2.は資本金が1億円以下なので特定同族会社にならない。10.と11.は社会保険料の引き落としが年度内に行われなかった為に書く(銀行の振込が年中無休でなされるようになる迄は必要?)。

財務諸表は eTAX の財務諸表エディタに こぶり会計帳簿の数字を入れ、印刷でpdf化した。(eTAX では、財務諸表はXBRLデータとして扱われる。)
  1. 損益計算書.pdf
  2. 貸借対照表.pdf
  3. 社員資本等変動計算書.pdf
  4. 個別注記表.pdf
XBRLデータは財務諸表エディタにインポート出来て、項目を再利用出来るので、[XBRLデータ(3つのファイルを含むフォルダ)]も紹介しておく。

役員報酬を支払っている法人で、(経理的工夫により)これ以上確定申告書を簡単にすることは出来ない、と思っている。

下記のような決算の場合には、更に提出書類が必要になる。
  • 別表6(1) 所得税額の控除に関する明細書: 預貯金の利子にかかる所得税額を法人税額から控除、若しくは還付する場合。
  • 別表7(1) 欠損金の損金算入に関する明細書: 所得金額が赤字の時に(決算整理で債務免除益で所得金額をゼロとせずに)、将来黒字化した時の為に欠損金の繰越をする場合。