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自家用法人の経理

日本の法人で最少の経理事務作業を達成するため、様々な工夫をしてきた。

経理が必要な訳

ちゃんと事業を営んでいるなら、事業に必要な資金を把握したり、銀行に融資を申し込むのに経理が必要なのは分かる。しかし、自家用法人なら、そんな面倒な事をしなくても代表社員である私が分かっている。何せ、支出は給与と社会保険料と法人県民税と法人市民税のみ、収入は役員借入金のみである。

しかし、経理を無くす事は出来ない。会計帳簿を作成し、それを10年間保存することが会社法で定められているからだ。つまり、会計帳簿の作成と保存が経理の仕事なのである。

それに、法人には確定申告する義務があり、その為にも会計帳簿は必要になる。法人税法にも会計帳簿の作成と保存の義務がある。どのような帳簿が必要なのかは青色申告法人か否かで異なるが、我が自家用法人は青色申告法人にしている。
コラム: 青色申告法人のメリットは、欠損金の繰越が可能になることだが、我が自家用法人は役員借入金の債務免除益で毎年欠損金をゼロにしているので、そのメリットは受けられない。しかし、青色申告法人なら税金を推計課税されないので そのようにした。

必要な書類

青色申告法人として用意しなければならない書類の規定は法人税法施行規則にある。
(詳しくは[法令が要求する会計帳簿]で解説している。)
我が自家用法人は、この規定を守れる最低限の経理を目指す事にした。取引に関する帳簿として、仕訳帳総勘定元帳は絶対に必要で、決算書類としては、貸借対照表損益計算書社員資本等変動計算書個別注記表が必要(会社法 第617条、会社計算規則 第71条 第2項)。

企業会計原則には従わず

会社法 第614条には、「持分会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」という規定がある。企業会計原則は法令ではないが、この企業会計の慣行を纏めたものである。

確かに、金融機関から融資を必要とする場合には企業会計原則に則った会計にするべきだろう。しかし、自家用法人は外部からの借り入れはしない。従って、法令に違反せず、税務署が認める範囲で最も簡単に経理事務が出来ればそれで良い。

即ち、自家用法人では、経理は法人確定申告の為だけにあると言って良い。その法人申告の為の会計は一般的に税務会計と呼ばれる。
  • 一般の会計では、利益 = 収益 ー 費用
  • 税務会計では、所得 = 益金 ー 損金
というものを計算する。そして、申告を簡単にしようと思うなら、収益と益金、費用と損金を一致させるような経理を心掛け、そう出来なくても、損金として認められない費用は別の勘定科目にして確定申告をやり易くする。

そして、経理事務を簡単にする為に「企業会計原則に従わない」のは以下の2点。
  • (損益計算書の本質 A) すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。
→ なるべく費用を計上しない。(私のポケットマネーで支払う。)

会社の経費を増やしても、税金が減る訳でもなく(そもそも赤字だから)、帳簿に記載する手間と領収書を保存する手間が増えるだけである。そして、税務署は所得が減る方向に経理処理する場合は厳しいけど、その逆なら全く問題にしない。(但し、何か事業を営み、黒字の予想がある場合には、費用は正しく計上するように方針を変える。)
  • (当期純利益) 当期純利益は、税引前当期純利益から当期の負担に属する法人税額、住民税額等を控除して表示する。
→ 税引前当期純利益から当期中に支払った法人税額、住民税額等を控除。

法人税等は損金に出来ないので、当期純利益の計算方法を変えても、所得は変わらないので税務署は問題にしない。そして、こうすると確定申告の書き方が非常に分かり易くなる。(特に、利子に対する所得税の還付金がある場合)

現金を無くす

会社のお金は全て銀行預金とする。そして、全ての取引を銀行口座を介して行う。そうすると、金額に間違いは発生しないし、通帳に記録が残る。そうなると、決算時のみの記帳でも問題ない。

しかし、支出や収入の全てが法人口座を介するのは困難なので、そういう場合には現金のやり取りは個人(役員1、役員2、…)の財布を通じて行う。そして、以下のような仕訳をする。

役員1 に対しては、預り金1 と 立替金1 という勘定科目を作っておく。
  • 役員1が代金を支払った場合 … (借方) 費用の科目 (貸方) 預り金1
  • 会社が役員1に代金を振込んで精算 … (借方) 預り金1 (貸方) 普通預金
  • 役員1が代金を受取った場合 … (借方) 立替金1 (貸方) 収益の科目
  • 役員1が会社に代金を振込んで精算 … (借方) 普通預金 (貸方) 立替金1

利子を無くす

この低金利の時代でも銀行預金には僅かの利子が付く。しかし、この僅かな利子が経理事務に面倒な作業を増やす。処が、この銀行預金の種類を決済性預金というものに変更すると利子が付かなくなる。(それに、銀行破綻時でも預金の全額が保護される。)
コラム: 正確には、利子に税金が掛かるのが経理事務に面倒な作業を増やす。実は、2016年1月1日以降の法人が受け取る利子について、利子割と呼ばれていた地方税の部分が課税されなくなった。所得税の部分は依然として課税されているが、将来はなくなるかも知れない。課税されなくなったら、利子を貰っても経理事務は複雑にならない。
そこで、我が自家用法人では、決済性預金に切り替えている。

法人所得額をゼロ(以上)にする

費用は計上しないとは言え、役員報酬と法定福利費(社会保険料の会社負担分)と税金だけは費用としている。架空の会社でない証明として、役員報酬支払いを銀行預金の取引履歴にしているし、社会保険料は口座からの引き落としだ。その費用は私が会社に貸すことで賄う。会社から見ると、役員借入金という勘定科目になる。
コラム: 役員報酬の支払いを帳簿上の決済にする事の是非。労働基準法 第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。… とあるが、役員は労働者には当たらないので、役員借入金を増額する経理処理で役員報酬を支払った事にするのは法的には可能だと考える。しかし、税務署や社会保険事務所がそれで納得するかは不明。きちんと役員の個人口座へ振込む方が心証が良いはずである。
しかし、その役員借入金をそのままにしていると会社の借金額が膨らんでいく。将来会社が利益を上げて、私に借金を返す見込みがあるなら良いのだが、生憎と事業を営んでないから借金は返せない。しかし、その返せない借金でも私の子孫の相続財産となり、相続税を支払う羽目になりうる。

そこで、私は会社に対する借金を毎年免除してやる。それは、会社にとって債務免除益という収益を上げた事になる。免除し過ぎると会社の所得額がプラスになって法人所得税を余分に支払う事になるから、決算時に所得額がゼロになるように免除額を決める。(勿論、何か事業をやって所得額がプラスなら債務免除は不要。)

こうすると、欠損金の繰越が不要になるから、確定申告の書類も減らせる。

但し、法人税額等は損金にならないから、所得額がゼロでも当期純利益は赤字になる。支払った法人県民税と法人市民税の額だけ、毎年累積赤字が増えていく。

給与所得額をゼロにする

役員報酬額は、社会保険料が最低になるようにする。その額だと源泉徴収も不要になる。しかし、低い程良い訳でもない。少なくとも、社会保険料の自己負担額以上は無いと給料日に逆に役員から会社に振り込まなければならなくなる。それに、クレジットカードのキャッシング枠は年間給与収入の1/3が限度になる点も考慮すると、給与所得額がゼロとなる範囲の最高額に設定するのが良いと考える。(給与以外の収入が発生する可能性も考慮すれば、給与所得額はゼロにしておくべき。)

給与収入額から給与所得控除額を引いたものが給与所得額になる。そうすると、年間650,999円が給与所得額がゼロ(その給与額に対する給与所得控除額が650,000円で、千円未満の所得額は切り捨てにするから)になる上限である。それを12で割ると、月額54,249円になる。

そういう理屈から私の役員報酬額は、月額54,200円に決めた。勿論、役員賞与は無し。

表計算ソフトで複式簿記をする

記帳すべき取引を最低限にしているから、経理ソフトを導入するのは大げさである。要らない機能が多そうだし、設定も大変そうだ。そこで、表計算ソフトで複式簿記が出来るようにシステムがを作った。それをGoogleスプレッドシート上で動かしているのでクラウド型の経理システムのメリットも享受出来るし、自家用法人の経理程度なら処理速度も満足出来るレベルにある。

そして、万が一Googleスプレッドシートのサービスが停止されたとしても、PC上でも大抵の表計算ソフト(ExcelやLibreOfficeなど)上で動くし、無料だ。

何の制限もしてないから、自分の好きなようにカスタマイズすることが出来るが、裏を返せば、システムには何の保護も無いので、表計算ソフトと複式簿記の知識は必須だ。

そして、システムを自作した最大の理由は、印刷保存が必要な書類を可能な限り小さくすることだった。現在は、仕訳帳、総勘定元帳、集計表、財務諸表を各A4一枚づつに納めている。(市販の経理ソフトだと何枚になるのか知らないけど。)

このシステムに[こぶり会計帳簿]という名前を付けて、別のページで詳しく紹介することにした。