アルトにはフロントスタビライザーの設定が無く、そのためハンドルを切った時のロールが大きいし、強い横風でふらふらする。フロントもリアもシートの座面やバックレストの形状が真っ平らで座り心地が何とも悪い。リアシートのバックレストは角度が寝かしすぎだし、フロントシートが低いので見通しが悪い。
買った当時はダメな設計だなあ、と思っていたけど、今は安い車が必要な人に安い車を供給する、というスズキの方針に沿った設計なのだなあ、と感じている。
アルトは本当に安い。メーカーの利益も少ないだろう。もし、アルトにダメな所が無かったらアルトばっかり売れてスズキは儲からない。だから、日常の足として安い車が無くてはならない人の為に儲け度外視でアルトを作り、儲けは売れ筋の車種で稼ごうとしているのかも知れない。言わば、アルトはスズキの良心作なのである。
そう思ったのは、アルトのライバル、ダイハツのエッセという車の写真を見た時だ。リアバックレストの上端を支える金具とパーキングブレーキレバーがアルトと全く同じ部品だと気付いた。アルトの設計者は、この一番安い部品を使って設計するように言われたのか、と納得した。
そうすると、バックレストの角度もこれ以上立てられないのかもしれない。(もう一つの可能性は、バックレストを寝かせることで室内長というカタログの数値を大きく出来るから、セールス上そうするように言われたのかも。) パーキングブレーキレバーの高さが決まっていれば、それに合わせてフロントシートの高さも決まる。シート表面の形状も平坦にしないと表皮の縫製が複雑になってコストアップになる。リヤシートのバックレストにしても必要でない人々もいる。追突事故など在り得ない離島で使うとか、リヤシートには小さな子供しか乗せないとか、そんな使い方ならバックレストは無駄なコストだ。
別に開発陣が悪い訳ではない、コストを最優先にするアルトという車の性質から生まれた設計なのだ。
しかし、アルト(型式:HA24S)という車は、ワゴンR(型式:MH22S)という売れ筋の車と同じプラットフォームである。エンジン、サスペンション、ステアリング、ブレーキなど走行に関する基本部分は同一なので部品の流用も出来る。
そこで、ワゴンRのパーツカタログも手に入れ、フロントサスペンションを調べた。アルトとの違いはスタビライザーの部品の有無だけだった。つまり、その部品を取り付けるだけでアルトにフロントスタビライザーが付くのだ。逆に言えば、アルトはコストの為に部品を削られて安定性を損なった不完全なフロントサスペンションにされている。
だから、その失われた部品を復活させる行為は改造と言うより補修と言うのが相応しい、とさえ思う。スズキのディーラーに取り付けを頼んだら断られたので、馴染みの自動車整備工場にお願いして取り付けて貰った(部品代込で2万円)。
これで、走行性能に関して、我が家のアルトはワゴンRの上を行く。軽量だし、重心は低いし、前面の面積が小さいから燃費も良いし、側面の面積も小さいから横風の影響も小さい。
フロントシートに座布団を置くことで高さは取り敢えず高く出来る。所が、そうするとパーキングブレーキレバーとシフトノブの位置が下過ぎる。市販のシフトレバー延長棒を使えばシフトノブの位置は上げられる。ではパーキングブレーキレバーをどうやって持ち上げるか。色々考えた挙句、結局はワゴンRのパーキングブレーキレバーに交換することにした(部品代はブレーキカバーも入れて1万円強)。
シフトレバーは最初は真っ直ぐの延長棒を使っていたが、その後にくの字型の延長棒に変えた。更にくの字を運転席側に少し捻った位置で固定してシフトノブが好みの位置になるようにした。写真は1速に入れた時、シフトレバーの延長線よりもシフトノブが運転者側に傾いているのが分かる。
フロントシートも座布団を置いておくだけでは気が済まなくなって、大胆に改造した。写真のシート座面の側面、リクライニングレバーの上辺りに横に筋が入っているけど、その位置が元の座面の高さである。
座面を持ち上げるのは主に手芸店で売っている座布団用の硬綿である。化繊綿が層状に固められているので薄く剥いで厚さを調整することも出来る。スポンジと繊維が絡まるとズレないので接着剤などで固定する必要がなく何度でもやり直しが効くので、座ってみないと上手くいったか分からない手探りの改造にはとても有効だった。それと、ホームセンターで売っている硬質スポンジとチップウレタンも使っている。
バックレストもスポンジを表面から大幅に千切って硬綿を表皮の下に入れてある。リアシートも単にスポンジを千切るだけでなく、硬綿や硬質スポンジを駆使して最適の座り心地を追求している。
最後に、切り刻んだフロントパネルも運転席から見ればマトモに見える証拠写真。