必ず役立つ簿記の知識

娘が簿記も習った方が良いのか聞いてきた。私は独学だけど、その本質は分かっている積もりだ。もちろん、簿記は会社や個人事業の経理に必須の知識だけど、それ以外でも色々な場面で役立つ事がある、と言える。

例えば、今年は金の売却益を市に申告する。その金は毎日異なる相場の価格で少量づつ買い付けて貯めたものだけど、購入価格や保有期間をどう決めるのか分からなければ申告も出来ない。

それに、金は消費寄託で預けているから毎年僅かな寄託料が貰える。今迄はそれ以外に所得がなかったから、その寄託料を申告する必要が無かったが、今回はそれも雑所得として申告する必要がある。

その寄託料だが、現金ではなく寄託した純金の0.01%の量の金である。私の場合、1gにも満たないけど、その金の評価額をどう決めるのか分からなければ雑所得の金額も決まらない。

しかし、簿記の知識があれば、そんな悩みも解決出来る。

複式簿記の考え方

一般的に商売というものは、仕入れた商品を売って儲けることだ。売るのが収益で、仕入れは費用、儲けは 収益-費用 で表される。では、仕入れた商品が売れる前に会計年度末を迎えた時はどうなるのか。

収益がまだ無いのに費用は発生しているから赤字なのか。しかし、仕入れというものは単にお金を商品と交換しているだけなので、そこでは損をしていないはずだ。その観点から帳簿を作るのが複式簿記である。

帳簿には仕入れに使ったお金の他に、仕入れた商品もその取引の相方として記録する。そして、お金は使ったけど、その仕入れの費用と同じだけの価値のある商品というものが手元にある限り、費用は発生していない、と考える。その商品が買い手に渡った時に初めて費用が発生する。

そうすると、この世にバーゲンセールというものがなぜ存在するのかも理解できる。売れない商品を抱えていれば費用に出来ないから、計算上の儲けが大きくなって税金が増えてしまう。しかし安値でも、売れば仕入れた値段が費用として計上出来るから儲けが減り、その結果、税金が減って資金繰りが助かる。

棚卸しとは

ところで、帳簿に商品という項目(簿記の用語では勘定科目と呼ぶ)を使った時、帳簿上はその商品は仕入れた値段と等価である。しかし、売る値段は仕入れた値段に儲けの分を上乗せすることになるから、簿記では 商品+儲け と お金を交換するように記録する。

しかし、このやり方は同じ商品が二つとしてない絵画とか宝石とかなら良いが、同じ製品を継続して仕入れ販売するような一般的な商業活動には向かない。ある時はA円で仕入れ、ある時はB円で仕入れた商品を売る時、それがA円で仕入れたものかB円で仕入れたものか区别など出来ないからだ。

そこで、商品の代わりに仕入と売上という項目を導入する。仕入れる時はお金と仕入の交換、売る時はお金と売上の交換を記録する。そして、儲けは (合計)売上-売上原価 で表される。そして、売上原価は 期首在庫+(合計)仕入-期末在庫 として計算する。そうすると、売れて無ければ期末在庫が増加し、売上原価は減ることになり、儲けが増えることになる。

この在庫の値段を確定させるために決算期末に商品の在庫数をかぞえるのが棚卸しと呼ばれる作業である。それに商品の単価を掛ければ期末在庫の値段が出る。期首在庫は前の年度の期末在庫の値を使う。ついでに言うと、もし、期末在庫が無ければ、この作業の手間も不要だし保管の費用も削れる。これもバーゲンセールをする理由だろう。

問題は仕入れの値段がまちまちの時に商品単価をどう決めるかである。会計上、幾つかの方法が認められている。具体的には、総平均法、先入先出法、移動平均法、最終仕入原価法などである。法人や個人事業で「棚卸資産の評価方法の届出書」を所轄の税務署長に提出していない場合は、最終仕入原価法が法定評価方法となる。

国税庁は自らは指示しない

では、売却した金の商品単価はどの方法で求めるべきなのか。国税庁は具体的にこの方法で計算しろとは指示しない。しかし、自分で決めた方法で申告して後から否認されるのは嫌である。そういう時には国税庁にお伺いを立てる。

この件に関しては、社団法人 日本金地金流通協会が「金定額購入システムで取得した金地金を譲渡した場合の課税上の取扱いについて」というタイトルで、商品単価については総平均法で算出し、所有期間については先入先出法で判定してよろしいか、という内容のお伺い(正しくは事前照会という)を立てている。

そして、2006年10月23日付けで東京国税局 審理課長より次の回答があった。
標題のことについては、ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません。
ただし、次のことを申し添えます。
(1) ご照会に係る事実関係が異なる場合又は新たな事実が生じた場合は、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあります。
(2) この回答内容は、東京国税局としての見解であり、事前照会者の申告内容等を拘束するものではありません。
何と素っ気ない返事だが、これで国税庁のお墨付きを得た訳である。幸いにも、三菱東京UFJ銀行が最後にくれた金積立の報告書は大事に取ってあって、そこに総平均法による購入単価が書かれているし、それ以来金は購入していないから保有期間が5年以上あるのは明らかである。

寄託料の金の単価

金の売却益に関してはネットを検索して上記の事は分かったけど寄託料については国税庁の見解は見当たらなかった。田中貴金属のサイトには寄託料の受取りにかかる税金に関してのQ&Aで、次のように書かれている。
消費寄託料として地金を受取られた場合、その時点での弊社買取価格を掛け合わせた金額が、所得税法上「雑所得」となり課税対象となります。
しかし、その時点とは何時なのか。9月中ではあるが、何日に受け取ったのかは不明だ。そうであれば年度末の値を使うのが妥当だろう。報告書には年度末の金の預かり総量と時価評価額が書かれているのだから、そこから単価が計算できる。

もう少し簿記の話

冒頭の簿記の話は申告に関して最低限必要な事だけ書いた。儲けと書いたのは正確には売上総利益という種類の利益である。そこから人件費や不動産の費用などの様々な費用(販売費及び一般管理費)、借り入れ資金の支払い利子(営業外費用)、事故などによる予想外の出費(特別損失)、そして税金を差し引いた残り(税引後利益)が正真正銘の利益になる。

これまでの話は商業簿記という範疇だったが、製品の製造となると工業簿記という知識も必要になってくる。工業簿記の扱う分野は、決算期末には原料の在庫、製造中の製品、完成品の在庫などがあって話が難しい。そして、私がそれを学んで知った衝撃の事実は、工場の経費は直接には費用とはならず、まず製品原価になるという事だった。製品が売れるまでは費用にならないのだ。

その工場の経費とは、製品の原料や製品の直接製造に携わる工員の給料はもちろん、工場の開発エンジニアの給料も含まれる。それらが製品原価になる。その他、工場の建物、機械、工場勤務の社員の社宅費用までぜ~んぶ製品原価になるのだ。

開発エンジニアだった頃、私の給料と本社勤務の人の給料が経理的には全くの別物だったとは気が付かなかった。