自転車はフレーム以外の部品は何でも交換して自分の好みにできる(フレームまで変えたら別の自転車になってしまう)が、オリジナルを尊重した上で、どうしても気に入らない点だけを改善するのが私のやり方だ。
- 調整だけでは体に合わないところを改造する。
- 不足する装備を追加する。
- 邪魔な部分を除去する。
- 問題のある部分を改善する。
軽量化の罠
改造派の中にはひたすら軽量化を目指して買った自転車の金額の何倍もの改造費用を費やしている人もいるらしい。それが楽しいのならしょうが無いけど…最初から高い自転車を買った方が結局は安くつくと思う。
ところで、自転車を軽くすると(財布も軽くなるが…)何が良いのか。一番分かるのが取り回しと持ち運びが楽であること。次いで、加速と登りが速くなること。
しかし、加速と登りに対する効果は「自転車+装備+体重」の合計で決まるもの。体重が自転車の何倍も重いのだから、自転車を1kg軽くするのに大枚を叩いても、その効果を実感することは(持ち上げた時以外は)難しい。
ママチャリが1万円台で20kg、まともなクロスバイクなら10-12kg程度で5-10万円位、そこから先はロードバイクの世界で8-10kg程度で10-20万円位はする。ロードバイク競技にはバイク重量が6.8kg以上という規定があるが、その規定を満たす6kg台のバイクなら50-100万円位。それよりも軽量化する意味合いはあまりないが、世界最軽量のロードバイクは5kgを下回るらしい。
軽量化には大して意味が無いとは言え、例外はリムとタイヤ(チューブ含む)の軽量化である。それは回転体には慣性モーメントという働きが加速に対して質量と同じように作用するからで、ネットで調べるとリムとタイヤの軽量化は車体の軽量化の10倍の効果があるとか。
また、ホイール径がスポーツバイク標準の700Cよりも小さな小径車と呼ばれる自転車でも慣性モーメントが小さいので加速に有利であると書かれている。
それでは、小径車では一体どれ位有利なのか、体感ではなく、定性的に説明しているものはないかと探したが、ネット上で見つけることは出来なかった。リムとタイヤの軽量化についても10倍という値の根拠をネット上で見つけることは出来なかった。
エネルギーの観点から考える
しょうが無いので、自分で考えることにした。ところで、結論を書く前に自転車の走りについての力学的な解説をして読者に分かり易いようにしたい。
- 平坦な道を定速で走る場合には転がり抵抗と空気抵抗のみが影響し、それらの抵抗で減じたエネルギーを漕ぐことで補填する。質量や慣性モーメントは関係ない。
- 坂道を登る場合は、更に位置エネルギーの増加分が必要になる(余分に漕ぐ)。位置エネルギーは質量と登る高さに比例するが、慣性モーメントは関係ない。
- 自転車が走ると運動エネルギーと回転エネルギーを持つ。加速する時には運動エネルギーと回転エネルギーの増加分が必要になる(余分に漕ぐ)。
坂を登ったり、加速する時に溜めた位置エネルギーや運動エネルギーと回転エネルギーは良質のエネルギーなので電車や電気自動車では坂を降りたり減速する時に回収できるのだが、自転車ではブレーキで(或いは空気抵抗で)熱エネルギーとして捨てるしかない。
さて、説明にはエネルギーという観点から纏めたが、これが一番分かり易いのだ。力はギア比を変えれば大きくも小さくも出来るし、クランクの回転数も同様だ。しかし、漕ぐエネルギーはその掛け算になるから変わらない。
さて、説明にはエネルギーという観点から纏めたが、これが一番分かり易いのだ。力はギア比を変えれば大きくも小さくも出来るし、クランクの回転数も同様だ。しかし、漕ぐエネルギーはその掛け算になるから変わらない。
- 漕ぐエネルギーは、(平均踏力)×(クランク長さ)×(2π)×(回転数) で表せる
- 運動エネルギーは、(1/2)×(質量)×(速度)² で表せる
- 回転エネルギーは、(1/2)×(慣性モーメント)×(角速度)² で表せる
- 位置エネルギーは、(質量)×(重力加速度)×(高低差) で表せる
上記の各エネルギーの式は全て異なるのだが、見かけは違っていても同じ物理量なのだから同じ次元、同じ単位(J = kg・m²・s⁻²)で比較出来る。
意外な結果だった。リムとタイヤとチューブの軽量化はその他部品の軽量化よりも効果が大きいとは言え、(本来の運動エネルギーとしての質量の他に回転エネルギーとしての等価質量が同じ大きさだけあるから)ちゃんと計算すると2倍程度しか無いのである。
それも、高々2倍である。リムとタイヤとチューブの質量がタイヤ外周部に集中しているとして慣性モーメントを計算したが、実際はそれよりも中心に近い方に分布しているから正しい慣性モーメントの値は大きくは違わないにしても計算値よりも低い。
しかし、一般的に小径車と呼ばれる自転車は太めのタイヤを装着しているから、軽量化しているかどうかは怪しいと思っている。
いよいよ慣性モーメントについて
自転車では色んな部品が様々な角速度で回転しているのだが、回転半径と角速度と質量が最も大きい部品である車輪(のリムとタイヤとチューブ)が回転エネルギーのほぼ全てを占めているから、(ホイールのハブの重さを含めて)他の部品の回転エネルギーは無視出来る。従って、車輪の半径をrとすれば、- 角速度は、(速度)/r で表せるから、上の式を変形すると
- 回転エネルギーは、(1/2)×(慣性モーメント/r²)×(速度)²
そして、リムとタイヤとチューブの合計質量mは車輪の半径部分に集中しているから、
- 車輪の慣性モーメントは、mr² で表せるので、
- 回転エネルギーは、(1/2)×(m)×(速度)² と変形出来る
ここで運動エネルギーと回転エネルギーの式を比べると、リムとタイヤとチューブの回転エネルギーによる等価質量は運動エネルギーとしての質量とほぼ同じと言える。
意外な結果だった。リムとタイヤとチューブの軽量化はその他部品の軽量化よりも効果が大きいとは言え、(本来の運動エネルギーとしての質量の他に回転エネルギーとしての等価質量が同じ大きさだけあるから)ちゃんと計算すると2倍程度しか無いのである。
それも、高々2倍である。リムとタイヤとチューブの質量がタイヤ外周部に集中しているとして慣性モーメントを計算したが、実際はそれよりも中心に近い方に分布しているから正しい慣性モーメントの値は大きくは違わないにしても計算値よりも低い。
小径車のメリット
計算結果では、等価質量についてはホイール径は関係しなかった。しかし小径車にメリットが全く無い訳でもない。ダメ押しの説明: 小径車のホイールは慣性モーメントは小さいが(同じ速度で走るなら)回転速度は大きくなるので両者が相殺して等価質量の値がホイール径によらなくなる。全く同じ材質と構造で径を小さくしたホイールを作ったとすると、リムとタイヤとチューブの重さは外周の長さに比例するから重さは確実に減らせるし、ホイールが小さければ自転車全体も小さく作る事が出来て、それも軽量化に繋がるはずなのだ。
しかし、一般的に小径車と呼ばれる自転車は太めのタイヤを装着しているから、軽量化しているかどうかは怪しいと思っている。
珍説流布の謎
しかし、自転車雑誌などを読むと、ホイールの小径化の効果がものすごく体感出来るらしい。その口調はオカルトオーディオに通じるものがある。多分にプラシーボ効果が含まれているに違いない。
シマノなどのメーカーは流石に知っていると思うが、ホイールの軽量化の効果についての説明はない。車体よりもホイールの軽量化の方が10倍メリットがあるなどという珍説を流布させておいたほうが都合が良いのだろう。
シマノなどのメーカーは流石に知っていると思うが、ホイールの軽量化の効果についての説明はない。車体よりもホイールの軽量化の方が10倍メリットがあるなどという珍説を流布させておいたほうが都合が良いのだろう。