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日経「私の履歴書」の法則

日経新聞の朝刊最後のページは文化欄だ。そこの目玉の一つが「私の履歴書」というコラムである。功成り名遂げた人の回顧録を連載したもので、おそらく日経新聞が手配した編集者が大いに関与して出来上がったものと思うが、実に詳細にその人の人生がまとめられ、生き生きと描写されている。

長年様々な人物の「私の履歴書」を愛読してきたが、私の家族の間ではそこに一定の法則があることが確認されている。それは以下の様にまとめられる。
  1. 私の履歴書を書いたら、お迎えが近い。
  2. 創業社長や文化人の話は奇想天外な出来事や家族の話が多くて面白い。
  3. サラリーマン社長や元官僚の話は仕事の話ばかりで家族の話は殆ど無い。
最初の法則は対象となる人物がそもそも高齢であるからで、その人の年齢の平均余命と較べて見て短いのかどうかまでは知らないけど、訃報を聞いた時に、最近「私の履歴書」が載っていたよね、という事が実に良くある。

次の法則も大抵当たっている。今の連載はニトリの社長だが、奥さんがいなければとうの昔に家具屋が潰れたんじゃないかと思える程に商売上手な事とか、お父さんのとんでもない話とか家族の話が実に面白い。

文化人についても、例えば小澤征爾の一家がお金がないのに私立学校に進学させたり留学したりする話とかが印象に残っている。

例外は渡辺淳一の女遍歴。人を踏み付けて平然としている態度に家族の皆が腹を立てていた。そしたら突然、人殺しまではしてないがそれからの人生は私小説とほぼ同じだからここで止める、などと言って連載が終わってしまった。きっと新聞社にクレームが殺到したに違いないと家族で噂した。最初の法則の方は当たったけど。

最後の法則も大抵当たっている。ニトリ社長の前は内閣官房副長官を務めたことのある元官僚、その前は日揮の元サラリーマン社長だった人物だが、子供のことは妻に任せっきりだった等と書いている。組織に降り掛かってくる難題を与えられ、それを次々と克服していく様子には敬服するが、自分で自分の人生を舵取りしている人達に比べると魅力に欠ける。

さて、この法則を持ちだしたのは、もう先が長くない私の人生の参考にしようという訳ではなく、子供達に自分の生き方の参考にして欲しかったから。

息子は大学4年生になって、取り敢えずの大学院進学を目指している。大半が進学する理系だし、親としても進学には賛成だけど将来の事についてあまり考えていないようで心配だ。入試に合格するのかどうかの方がもっと心配だけど。

一方、娘の方はまだ大学2年生だけど大学院進学も含めて将来の事をあれこれ考えている。文理融合型の学部に進学したけど文系志望だから、大学院に進学したら新卒就職市場の商品から脱落するよって私は言ってる。進学したら顔のない商品(だけど大抵の学生は商品価値を高めるのには熱心)じゃなくて自分の名前で仕事が取れるようにならなくちゃいけない。

最近、娘の言うことが私が日頃言ってることに似てきた。就職じゃなくて、別の道を見つけたいって。そのために大学のリソースをフルに使って学んでるって。自分で考えて同じ考えに辿り着いたんなら父親として嬉しいんだけど。

それから私の履歴書を読んできて思ったのは、楽天的に生きる人が多かったこと。そしてその人の親がその手本だったこと。受け継がせるべきは決して多額の資産ではなく、賢明なる生き方ではなかろうか。